むしろアイドルの不安定な歌が聞きたい(FS38)

 えー、まあリップシンクについて、まとまったことを書いておこうか、と。
 これって「別に生歌じゃなくて良いじゃん」という人が多くなってきて、最近、非常に面倒くさくなっているわけで、私見を述べるのに結構、分量が必要になっちゃうんですよね。
 でも一言で言うとタイトルにしたことを一番、最初に言っておきたいかな。一番、純粋な音楽的側面からすると。もうディーバ系の、でもオートチューンで調整されて音程がバッチリになってる歌よりも、私にとってはアイドルの不安定な歌の方が魅力的なところが多かったりもするんですね。
 個人的にアイドルの曲をまた頻繁に聴くようになった2010年より前は、CDに関しても、邦楽(まあJ-POPですな)が凄く詰まらなくなってました。というのも歌だけじゃなく、もろもろ録音されたものをトリートメントする技術というのが非常に発達しまして…そうすると日本人なんで、極めて繊細に直しちゃうんですね。
 でも、それって本当に音楽的に「良いこと」なのかというと「違う」と思うわけです。例えばロックなら歪んだギターの音が「良い」という価値観の転換を起こしたはず。これはジャズでも、フリーとかは特に演奏法で似たようなことが起こってますし、ヒップホップならサンプリングの粗い音質というものの魅力の発見というのがありました。
 それとは真逆の方向、単純に「キレイな音」にJ-POPは進んでましたし、今も残ってます。それでも何とかアイドルの直し切れない歌の不安定な部分というのに、「余りの魅力」というものが残っていた感じです。特にライブでは「揺れまくる」わけで(笑)。
 ただ「下手なのが良い」というのとは、ちょっと違うと思うんですが、このへんを考え出すと長くなるんでやめておきます。とにかく上手くても、そういう「余り」が出やすいのがライブというところ。


 さてライブでのリップシンクというのは、生歌なら、そのつど違うはずの「一回性」の魅力という消してしまうわけです。
 現在のアイドルというのはグループが主流で、ダンスに非常に比重がかかっていて、そこで魅せる部分が大きくはなっています。例えばPerfumeなら、その技術が卓越しているのは言うまでもありませんし、48系は大人数の集団的なインパクトというのに力がある。ただ、もう一つ考えておかなければいけないのは照明や舞台装置を含めたヴィジュアルという点ですね。この点が実際のところ、楽曲以外の点でも簡単にPerfumeや48系の真似は出来ない、という部分のはずです。
 そういう「総合芸術」だから生歌が難しい場合はリップシンクでも良いだろ、という意見には頷ける部分もあります。ただ、そうなると完全にライブ音楽の魅力というのは「無し」になってしまいます。
 まだPerfumeですと生歌でやる曲もありますし、「チョコレイト・ディスコ」のようにマイクが「オン」になっていて、掛け声が入る曲もあるので良いのですが、48系公演の「ソロで踊りも少ないのにリップシンク」というのはどうかな…とか。まあAKBも結構、生歌でやるケースも少ないですが増えているところ、フォロワーのリップシンクばっかりのグループのライブとか、それも舞台装置とかは貧弱なライブアイドル現場とかになると…。

  
 もう一つ「アイドル」特有の問題として考えると、アイドルの「育成段階」という面でリップシンクは非常にマイナスだという点ですね。いくらボイトレしても、実際の緊張感を持って客を前にしてライブで歌う経験とは違うわけです。48系について一番、疑問に思うのは育成の面を強調しながら、リップシンク主体だというところ。反論として「彼女たちの多くは歌手を目指していないから良い」というのも「違う」と思うんですね。舞台で発声するというのは、演技だけじゃなくて、もろもろ「芸能人」として基本にあるところのはずです。ダンサーを目指しているわけでもないんですから。


 一方、制作サイドから見てみるとリップシンクというのは音響に気を使う部分が少なくなるので「楽ちん」なところもあるわけです。そのへんの「安易さ」というのも、まあ嫌な部分です。
 音響と言えば、また細かい話をしてしまうと、リップシンクの場合は録音物の情報量、多くはCDでしょうから16bitのPCMを越えることは無いので生歌というか肉声には音質として完全に「負け」ます。ま、カラオケと生演奏の関係も同じくですが。


 Perfumeは正直、リップシンクを許す傾向を助長してしまったところはありますが、彼女たちの場合は年齢的には、ほぼほぼアイドルの段階を過ぎてしまってますし、ファンは彼女たちが「歌える」のも知ってますしリップシンクになった過程もわかってます。一般的にも、あれだけ複雑な踊りになれば、それはリップシンクなるのも頷く人も多いでしょう。
 AKBの場合は、そういうPerfumeが作った土台の上で受け入れられている部分もあるかな、と思います。そこから差別化した、ももクロが最終的に生歌になったのも当然のこと。
 さてさて、これからどうなるんでしょう?