アイドルは進化する?

 今回は基本的に、ネタ振りをしていたのに最近の震災後の非常時状況もあって回収できていなかったところのフォローをしつつ、書評っぽい内容となっております。よろしくです。

「速報 新鋭アイドルグループ ももいろクローバーがブレイク寸前」は通常とは違う文体からして芸能ニュース的な書き方をするというネタだったんですが、下記のところは特に「敢えてやった煽り」であり芸能ニュースのパロディでした。

4月10日に中野サンプラザで行われる単独公演までにファンになった人がアーリー・アダプター、その後の人たちはフォロワー(アーリー・マジョリティ)となることが必死の勢い。

 「アーリー・アダプター」等のマーケティング用語は以前、紹介した『グループアイドル進化論』(マイコミ新書)でも使われています。ただ、私自身マーケティングには詳しくないのですが、ちょっと調べただけでも、現在における最先端のマーケティング理論からすると、このようなイノベーションの普及における「マーケットのベルカーブ」を安易に用いることは問題があるようです。
 ベルカーブを用いた普及学を批判的に継承したキャズム理論についても、更なる根本的な批判がなされていたりします。(参照:『キャズム』の理論的欠陥
 そもそもグループでもソロでもアイドルという売り方自体は特にイノベーション(技術革新)とは言えないでしょうから、単純に個々のアイドルグループがヒットするかどうかと、ベルカーブに表される革新的な商品の普及とは別の問題でしょう。
 このような普及を考えるならば、アイドルというもの自体の誕生と市場の形成を対象とするのが適当だと思います。
 その点では前記書と似たような題名の本ですが、「若さ」をキーワードに歌手、グラビアモデルから高校球児まで広義のアイドル現象を社会学的に論じた太田省一『アイドル進化論』(筑摩書房)の方が、マーケティングの用語は使わなくても、様々な気づきを多く与えてくれる一冊です。
 さて、そんなわけでマーケティング理論の門外漢である私が、これ以上深い入りするのもどうかなと思うのですが、リンクのWebページを読んで、色々と調べて、気がついたことがあるので、書いておきたいと思います。
 というのも、現代のマーケティング理論において「破壊的なイノベーション」と呼ばれるものはAKB48には非常に良く当てはまるな、と思うのです。実際、同じような観点を持っている人がいましたが、私の思うところは若干、違うので以下、考察してみます。


 連続的ではあるが、従来の市場を破壊するような技術革新というのは、例えばハードディスクが技術革新によって3.5インチから2.5インチへサイズが小さくなる、というようなものです。その際、サイズが小さい方が最初は回転数や容量が少なかったりしてスペックが低いのですが、それほど高スペックは必要ないけど、小さいサイズを求めているもの(この場合はノートPCなど)には受け入れられる。
 AKBも従来のアイドルファンからすると個々のメンバーは「あまり可愛くないじゃん」と思われてしまうのですが、大人数集めることで多様な選択肢を提供し、小劇場での公演や握手会で触れ合いが持てる身近な存在です。これが新しい市場、現在のAKBのファン層の中心である中高生にアピールしているというのは多くの人たちが指摘しているところです。
 ただ前述のところに戻る議論ともなりますが、アイドル全般が、スキルが足りないけれど特に若い鑑賞者にとって身近であるという性格においては、従来の芸能の市場に対して、破壊的な技術革新だとも考えられます。
 アイドル誕生において、そのメディアになったのはTVという全く新しい技術でした。毎週放送される歌番組に出演することで「お茶の間」の身近な存在になった黎明期のアイドル、更にその市場に破壊的なイノベーションを起こしたのは月−金の帯番組で更に身近になった、おニャン子クラブでした。
 AKBが公演チケットが入手困難になった現在でも大規模な握手会を開催してファンに対する親近感を維持しなければならないのはTVの力がそれだけ衰退して、ライブの持つ意味が強くなっているからでしょう。
 しかしAKBが起こした破壊的な技術革新もスペック向上の段階に入っています。その意味では、AKBの方法を踏襲しつつ、より高度なものを下克上的に提示する、ももいろクローバーの登場は必然です。
 前述の『グループアイドル進化論』でも「Perfume型の展開でAKB48が開拓したファン層を狙う」という戦略の流れで、ももクロが語られていますが「破壊的な革新」という観点が的確に提示できていないので、分析が甘くなっている印象があります。
 例えばPerfumeがブレイクしたのはアイドルファン層以外のリスナーに触れる他流試合のような場に進出していった成果です。面影ラッキーホール(知らない方は調べてください)とまで対バンしたのですから。ももクロ神聖かまってちゃんとの競演も同じような結果を出しつつあります。
 この意味でもアイドル業界内部での戦国時代は終わりを迎えているのではないでしょうか。これからはAKBが作ったプラットフォームを破壊する異種格闘技戦的な競争が出来ないアイドルは淘汰されていく時代になるような気がします。


 まあ、大体、こういうことは芸能ライターとか評論家よりも送り手側の電通のスタッフとかの方が、よっぽど高度で緻密な分析をしてプロモーションしてることなんでしょうけど。ただ、前述のアウェイでの戦いになってくると戦術以上に、個々のタレント、芸能IQ(C)殊能将之)が問題なんだよなあ、と思うところです。

アイドル進化論 南沙織から初音ミク、AKB48まで(双書Zero)

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