進行中の「マジすか学園2」批評

 いやあ今更、ドラマ「マジすか学園」にハマりました。
 「2」が始まってからパート1の方をDVDで黄金週間中にチェックしたんですが、AKB関連には何かと批判的な私が、それこそ本気で凄いと思いました。
 AKB関連の作品や仕掛けの部分と言うのは、ほとんど過去のアイドルのそれらを分析したり参考にした結果生み出されているものと言って良いのですが、これは新しいと認めざるを得ないところです。
 何が新しいのか。一番わかりやすいのは、普通はファンたちがメンバーのキャラクタを使って物語を妄想したり、更には二次創作的に漫画や小説で表現したりするのをアイドル本人側がやってしまったというところです。このことについては指摘する人たちが多いですが、実際の新しさは、その「手前」にあります。
 このような二次創作については2000年前後に、多数のファンを獲得したモーニング娘。ハロプロ・メンバーについてウェブ上で膨大に繰り広げられたところですが、AKBの場合は、まだ「RIVER」で初のオリコン週間一位を獲得したブレイクの端緒のところで、AKB側から「マジすか」という創作物がファンに提供されたというのが実際のところだと思います。更にAKBのファン層はPCでウェブに耽溺するよりも、携帯を使ったコミュニケーションを好む中高生の層が中心でしょう。


 ここでも重要なのは以前、説明した「破壊的イノベーション」における「手軽さ」です。また前回の話に絡めて分析すれば、モーニング娘。の二次創作は、サブカルオタク文化の文脈、また彼女たちのパーソナリティに関する情報に高度に依存した(ハイコンテクスト)なものが主でしたが、「マジすか」のパート1の基本的な構造は遥かに単純で、文脈に対する依存度の低い(ローコンテクスト)ものになっています。

 役名もそのままの前田敦子。ヤンキー女子高マジ女に転校してきた彼女は、一見地味なメガネ女子でありながら本当は喧嘩最強であり、マジにならなければいけない局面では眼鏡を外して、その力を発揮する…、というルーティーンは変身ヒーロー=ヒロインものの典型で、パート1では毎回かならず最後はバトルで前田が勝つというところで終わります。

 前田が最強であるのはAKBの総選挙で第一位になり、名実ともにエースであるという前提から来ているもので、彼女が対決する相手である他のメンバーの強さや地位もAKB内での人気という文脈に依存しているわけですが、単純に強さは順位に基づいているだけです。
 近年のポケモンを代表とする「対決もの」の創作物では、例えばAという能力では強いが、Bという能力では弱いというような複雑な性格付けが多く用いられますが、そのような新しさはなく、例えば80年代の「少年ジャンプ」の作品のような極めて単純で古典的な強さが基本になっているのです。
 このような古典的な少年マンガのようなストーリーを通して、AKBメンバーの順位を視聴者に印象づける点で、「マジすか」のパート1はAKB初心者にも非常にやさしい内容になっています。また彼らは主人公の前田の名前も自然と覚えてしまいます。更に前田に対するヤンキー集団のリーダー大島優子も本名=役名として特権的な登場人物として視聴者の記憶に残るという仕組みです。
 また人間ドラマ的な絡みは前田と大島といった演技の経験を積んでいるものに任せて、基本はB級アクションとしての面白さを追求した作りになっているのも優れた戦略でした。
 つまりはストレートな作劇のアクション・ドラマであり「同時に」メンバーたちの紹介=宣伝であり「同時に」ファンも二次創作的に楽しめる、という多層構造になっているわけです。
 これと同じような構造を1曲の中に凝縮したのが、ももいろクローバーの「行くぜっ!怪盗少女」なのですが…話を「マジすか学園2」に進めましょう。


 この続編はパート1が単純なヒーローものだったのに対して、「クローズ」などの武侠小説水滸伝)的なヤンキー漫画に、より近い内容になっています。AKBメンバーの紹介という側面は維持されていますが、パート1が総選挙の順位をなぞるものであったのに対して、こちらは総選挙直前に始まる放送期間ですから単純ではありません。
 特に前回の総選挙で上位にランキングされたメンバーは大部分がドラマ内では卒業していて活躍の場がなく、主演であるはずの前田も理由が謎のまま学園外での闘争に力を注いでいて、ほとんど登場しません。明らかに前作では二番手だったメンバー、または新しい面子をフィーチャーするキャスティングです。特にシブヤ役の板野友美は総選挙で7位から4位に上昇、またソロデビューも果たした現状と同様、マジ女と敵対するヤバ女のリーダーにまで成り上がり、打倒前田を期するという構図になっています。
 また前作が一話完結的なプロットであったのに対して、パート2は次回に引き延ばすような話運びをしています。これは、まあ、「最終回を映画館でやる」という流行のパターンの映画化がされ、最新の総選挙による順位を元に決着をつけることが予想されます。

 そんな混沌とした状況のストーリーで、主役不在に見えるパート2ですが、真の中心人物は、その名も「センター」、松井珠理奈なのは間違いありません。パート2の第1話になって松井珠理奈という特権的な本名=役名から「センター」という呼び名に移行していること、そうでありながら、劇中では「センター」とは呼ばれないこと。*1
 これらの点から考えられるのはパート2の基本が松井珠理奈がセンターを目指す話だということです。


 実際のところ松井珠理奈の演技に感動したことが私が「2」で初めて「マジすか」にハマった一番の要因です。正直、殺陣も非常に映えていて、その部分ではパート1の前田、大島以上の実力を持っています。また珠理奈と共闘するネズミ(渡辺麻友)の「陰」の演技も見事です。
 また前作以上に重要な役どころのゲキカラを演じる松井玲奈も相変わらずのモンスター振りと合わせて人間的な部分も見せる演技の幅を見せていて素晴らしい。
 それと比べると残念ながら存在感が弱いのがヒール役のシブヤなんですよね。W松井&まゆゆに比べると力の差が激しく…そこは脳内で「前田を倒すために"改造手術"を受けて…」という設定を加えて観ることをお勧めします。

*1:この記事を書いた後、呼ばれるようになってしまいました。