ヤンキー、カムバックホーム!〜ぱすぽ☆フライト遅延編

 かなり遅ればせながらですが今回は、ぱすぽ☆をフィーチャーしてみます。
 先週末、モバイルサイト会員限定フリーライブを渋谷で観てきました。以前、彼女らを見たのは複数のグループが出るイベントだったのでワンマンは初。これが非常に面白いというか興味深かった。
 まず何より最近で、これだけ「ヲタク色」の薄いアイドルの現場はPerfume以来。後者が「サブカルっぽさ」がヲタクに勝ってるとしたら「ヤンキー成分」がヲタクに勝ってたというか…。
 いわゆるヲタ芸の類とかサイリウムとかアイドル文化的なものはちゃんとあるし、ヲタの人自体もいるわけですけど、マキタスポーツ氏の言うヤンキー成分が多い人たちがヲタ芸とかを受容、変質させてる、という印象が強かったです。何と言うか、ぱすぽ☆を観てAKB48が中高生を中心としてアイドル市場を拡大したんだっていうのが良く判ったというところ。


 ヤンキーがアイドルに帰ってきたのでしょうね(ここでの「ヤンキー」は関西のアクセントじゃないと意味を成しません)。そもそもヤンキー、ツッパリとか不良、非行少年少女たちというのは、かつてはアイドル文化の保守本流と言っても良いところにありました。
 代表的には山口百恵、その後継者としての中森明菜、そして工藤静香です。また小泉今日子は現在ではサブカル的な消費のされ方が目立ってしまってますが、本来は本人も「やんちゃ」なひと。「なんてったってアイドル」も良く歌詞を読めば、完全にヤンキーなのが判ります。しかし静香を最後に、90年代前半、ヤンキーがアイドル市場から離れて、例えばavexの「アーティスト」のファンの主体になりました。その後、モーニング娘。(特に後藤真希)で若干、戻ってきて、アイドルの市場が大きくなったところ、ハロプロ衰退が始まってしまったんですが、これは本格回帰かもしれません。

 ここで、中山美穂のツッパリ・アイドルソングから1曲。またまたTK!
作詞 松本隆、編曲 大村雅朗

 歌詞にあるように、当時、85年には所謂「ツッパリ」は時代遅れになっていました。今ではほとんど死語です。そしてツッパリ文化と親和性の高いアイドルも時代遅れになりつつあったのです。


 何故、不良の文化とアイドルの親和性が高かったのか?
 という問いはアイドルがつい最近までマイナーになっていた現在だからこその疑問です。「不良」とは広義には「聖人君子ではない人たち」なわけで、一般大衆のほとんどが当てはまるものですから、大衆文化であるアイドルが近しいものであるのは当然です。非エリートと言っても良いかもしれません(ヲタクもサブカルも言うまでもなく極めてエリート主義的です)。
 しかし、アイドルと親和性の高い不良文化は所謂当時の「ツッパリ」でした。
 現在でも使われる「ヤンキー」とは、アメリカ大衆文化の土着的受容です。当然、アメリカン・ポップスも含まれます。明治以来、学ぶべきはヨーロッパであったエリートからすれば「低俗な異国文化」の受容ですから、ロックも不良です。しかし、この受容が進めば、もう不良でもツッパっているわけでも無くなって、当たり前のものから、やがて時代遅れのものになってきます。
 ちょっと前のヤンキーであるゴマキは「ロックなんか聴かない」わけです。
 90年代に入って、どんどんヤンキーのファッションは「ツッパリ・ロックンロール」からヒップホップ、R&Bへ、それから、もっと土着的なディスコを引きずっている層は、米文化から離れたユーロビートの日本的需要へ移行していきます。「タマフル」での「和ユーロ特集」を参照のこと(数日後にはPodcastがアップされるでしょう)。


 しかし、かつてのアイドル歌謡界は、このファッションの流れを全く無視してしまったと言わざるを得ません。ダンスミュージックを常に基本とするジャニーズも同じくで、やっと流行に追いついたのはヤンキー成分の強いSMAPがブレイクした頃でしょう。このあたり、模範と仰ぐMJが『BAD』の時期に、流行おくれになっていたのと平行しているかもしれません。
 女性ティーンズ・アイドル復興の部分では安室とMAXがユーロビート路線でブレイクし、SPEED(個人的にはキッズグループと呼ぶのが適当だと思いますが)がヒップホップ、R&B的な路線で登場するのが、工藤静香(音楽的にはブラコンでした)から5年も経ってのことです。つまり、これが「アイドル冬の時代」と言われるものの実体です。


 では何故、ヤンキー色の強い、ぱすぽ☆が「ガールズロック」なのか。
 このへんアメリカンロックとかパワーポップとか曖昧に言ってしまうと間違えるところで、結局は「ロックサウンドの80年代アメリカンポップ」のリバイバルという流行に棹差していると考えた方が良いです。このへんも昔ながらにヤンキーって言ってしまって良いと思える理由でもあります。
 
 メジャーデビュー曲の「少女非行」…じゃなかった「少女飛行」よりもインディーズでの「Pretty Lie」が好きだなあ。

 良く観ると判るのですがマイクを持った5人が歌中心で、その他、5人がダンスとアイドル的ルック担当という機能的なメンバー編成になっています。

 さて、フリーライブでは1ドリンク制でビールを飲んで、非常に盛り上がった気分で観た前半は、「Pretty Lie」をはじめ好きな曲が多くて、楽しくて仕方なかったんですが、中盤の企画コーナー以降は、ちょと残念なところが多く、もう少しセットリストは練って行かないと更なるブレイクは難しいかな、と思ってしまいました。
 正直、途中の少女時代に合わせて踊ったり、一番人気の増井みおがソロで初音ミク楽曲に合わせてダンスするコーナーはメジャーなアーティストとしては他人のフンドシで相撲をとるような「やっちゃ駄目なこと」だと思います。サウンドの統一性もなくなってしまうし。
 楽しさが減退していったのは途中で酔いも醒めてたのもありましたけど…(あ、何か、これって「アレ」に似てるな。ま、あえて明言はしないで置きましょう)。
 それから新曲でも大フィーチャーされている増井推しは一番、売上に貢献しているということでは判らないでもないですが、現在の規模の売れ方でマーケティングしてしまうと、大きな市場では結果を出せないと思うので、奥仲麻琴と合わせて使ってポートフォリオしておくのが吉かなと思います。大体、束アイドルというのはソロじゃ無理だから束になっているわけで。


 さて今回は2本立てです。次回、「進行中の『マジスカ学園2』批評2編」に続きます。