The Korean Invasion

 ちょっと時節柄、不穏当なタイトルになっちゃってますが、音楽のお話です。
 かつて60年代、ビートルズを初めとするイギリスのロック・バンドがアメリカで大人気を博したときに'British Invasion'と呼ばれたわけですが、今の日本の大衆音楽の状況はそれに近いなあ、と去年末ぐらいから思っていました。まあ規模的には'British Invasion'でも第二次よりも更に小規模だと思いますけど。
 背景には、いずれも国内のヒットチャートがつまらなくなっていた、というのがあるんじゃないかと思います。60年代前半のアメリカでは黒人が音楽的には革新的な仕事をしていたんですが、なかなか総合のヒットチャートには入って来ない。それをイギリスのバンドがコピーしたり、影響を受けた曲を作ったりしたのが、アメリカに逆輸入されたというのが内実でした。第二次もブラックミュージックをMTVが扱うようになる前後だったので、近い部分はあるでしょう。
 日本の一昨年2009年の状況をwikipediaを資料に見てみましょう。「終わってるオリコン」のデータですが。シングルチャートは完全にジャニーズの寡占状態になっています。またアルバムチャートは近年の強い傾向ですが、10位までの4作品はベストアルバムです。

 次に去年ですがご存知のようにシングルではAKBがジャニーズの寡占を崩しましたが、やはり多様性にはかける状態です。
 さて今年の上半期。シングルチャートでは復活した東方神起が4位に入り、KARAが12位、チャン・グンソクが15位、少女時代が21位と極端には目だってませんが、(より人気の実数に近い)アルバムチャートでは集計直前の6月発売の少女時代が10位にランクイン(21位にも前作アルバムが)。KARAも昨年発売で年間45位だったアルバムが14位です。
 明らかに全アーティストの中で人気トップ10のあたりに入ってきている状況です。
 さて、ここまでは単なる普及の根拠になるデータ。以下、音楽の話に行きます。


 今回のネタは前から書こうとしてたんですが、ちょうど下のような記事を読んだので、書いて置かないといけないかな、と思いました。
音楽が欧米化している日本以外の国では、K-POP の方が普通の音楽なんですよ。日本は特殊なんです。レベルが上か下かって話ではなくね」。
 なんか語順等がわかりにくい文章ですが「欧米化しているアジアの国ではK-POPのような音楽の方が一般的である、日本を除いて」ということですね。
 まあ「近代化」じゃなくて「欧米化」しちゃってるんだから、そうなんでしょうねえ、というのはさておき、ある種の真実を突いています。
 しかし、やっぱり一面的ですね。まず日本がアジアで初めて欧米的な近代化を推し進めた国家であるという学校でちゃんと習うような前提が踏まえられていません。日本の洋食に100年以上の独自の歴史があるように、日本の「洋楽」とそれに影響を受けた音楽にも相当の歴史があります。ジャズだって戦前からやっているわけですから。洋食がほとんど日本食なのと同じようにJ−POPは邦楽です。
 私が2000年前後ぐらいの韓国の大衆音楽を、ちょっと聴いて思っていたことを言えば「アメリカのR&Bの丸ままのコピーだな」ということ。それだったら本場のもの、あるいは日本のコピー製品を聴けば良いわけで、英語以上に判らない言語のコピー製品を聴く必要はないわけです。
 というか、これは、少なからず多くの日本人が感じてたことだと思います。だからBOAもJ−POP化しました。韓国人がJ−POPをやることには「独自性」があるからです。
 多分、それが変化した発端は東方神起だったんでしょうね。彼らも、かなりJ−POP化したわけですが、それを入り口に熱心なファンたちは、韓国盤とかにも触れることになったはずです。また韓国語曲の日本語ヴァージョンのシングルで1位になったものもあります。


 さて'British Invasion'の構造はこうでした。
 近くの黒人がやっている音楽をそのまま聴くのは障壁があるけど、イギリスの白人が黒人音楽をやっているのを聴くのは障壁がない。
 今、日本で起こっていることの構造はこうです。
 国内のヤンキーがR&Bをやってるを聴くのも、海外の黒人がやっているのを聴くのも障壁があるけど、韓国の上品でアイドル的な男女がやっているのには興味がある。

 つまり、ここにあるのは外見(ルック)における日本化です。これは、明らかに韓国ポップスがモーニング娘。とジャニーズを取り入れた時に起こった化学反応の面白さです。おそらく東方神起人気には、ジャニーズの行き過ぎた男性アイドル市場での寡占状況が影響していると思われますが、とりあえず「ガールポップ」を謳っているサイトですので、女性グループの話で締めましょう。


 実際は韓国の大衆音楽はアメリカに対する非常に強いコンプレックスに縛られていると思われます。日本のグループ・アイドルの影響は絶対にあるはずなんですが(でなければ9人編成などというものは無かったでしょう)、このような「カワイイ」路線でもアメリカの60年代、80年代的なファッションを外見的には入り口にしていたりします。
 また、例えば数年前は日本的なカワイらしさを持つ「GEE」を歌舞していた少女時代も、去年ぐらいには「RUN DEVIL RUN」のようなハードなアメリカ西海岸的な路線に変化しましたし、彼女らやKARAに続いて日本で紹介されてきたグループ、4minuteや2NE1などは、とても日本ではアイドルではありませんし、おそらく韓国でも、もっと本格派路線でしょう。

 しかし面白いのは、「ototoy アイドル研究室」における南波一海氏の講義のUST(アーカイブなし)によると、これがまたIUというソロシンガーのヒットによってキュートな路線に流行が回帰しているらしいってことなんですね。

 おそらく日本デビュー曲「Madonna」が来週のオリコン週間トップ10に入ってくるだろうSecretの本国での最新ヒットが、そこで紹介されていたんですが、こんな感じ。

 ちょっと無理が…。
 それよりもIU自身の曲を聴いてもらって、お終いとしましょう。

 観客の盛り上がりがアイドルヲタ的で韓国のファンも日本化してきてるんじゃないかな、という印象もありますね。今後が注目です。