フェスティバルからグローカル〜2011年アイドルポップ・シーン雑感(つまり雑な感想)

 昨年末の12月27日、「ご当地アイドルNo.1決定戦」と銘打ったU.M.U AWARD 2011の本選が開催され、広島の3人組グループ「まなみのりさ」が優勝を飾りました。
 第二回目となる今大会については、多くの問題点があり、成功とは言いにくいものだと考えますが、逆に昨年のアイドル・シーン全体を振り返るのに象徴的なイベントであるとも思われます。と、若干、強引な話題設定から、今年最初のコラムを始めます。あけましておめでとうございます。


グループアイドル乱立とフェスティバル
 まず「戦国時代」とも形容されるような、アイドルグループ結成ブームが昨年からあり、それがローカルなシーンにも広がっているという背景があります。
 U.M.Uの本選出場の10組中7組が6人以上のグループで、ソロ歌手はゼロというラインナップもAKB48以降のシーン全体を反映しています。前回も出場したりんご娘(青森)が直前に4人編成から5人へ増員し、妹グループであるアルプスおとめも参加するなど、そのトレンドを意識したようなステージだったのも興味深いです。
(ただ、他のグループとは異なり結成当初のモデルだったろうモーニング娘。と同じような先輩後輩的序列が強いシステムではありましたが)。

 しかし昨年のシーン全体は、群雄割拠の競争的雰囲気が前面に出ていた一昨年からは変化し、Tokyo Idol Festival(TIF)やアイドル横丁祭のような、アイドルグループが一同に会したフェス的なイベントが主流になってきました。ここには震災の影響も明らかにあるでしょう。
(ただし実際は戦国時代と祝祭は裏表であり、それはAKB48アイドリング!!!が裏表であるのと同じです、というのは半分冗談ですが、まあ同じヲタク趣味の共同体の中での出来事に過ぎないのは認識しておくべきかと)。

 U.M.Uも昨年の「バトルロイヤル」と称していた競技色の強い自薦枠のイベントを廃したのは、このトレンドに近いものでしたが、本大会のライブイベント出場への二次選考を全てウェブでの反響に基づいたものに変更し、また本選も優勝一組のみのままだったため、システム上は競技的な要素が増えてしまい、お祭り感は減退してしまったように思いました。
 この点は震災復興を重視して東北地方の枠を2つに増やしたり、審査員特別賞などを設けたりすることで、緩和することが出来たのではないかと思われます。


「ご当地色」の減退と脱ローカル
 U.M.Uの最大の問題点は「ご当地アイドルNo.1決定戦」というコンセプトが古くなっているというところにあるように思えます。
 日本の歌謡史において「ご当地」という言葉には「ご当地ソング」以来の「地元PR」の意味合いが含まれていますが、今回の出場者のほとんどは、そのような特色よりも国内スタンダードであるグループアイドルのスタイルの均質性の方が目立っていました。
 一番、「ご当地性」を意識したステージングで、また実力も兼ね備えていたのは、りんご娘だったのですが、前回の雪辱を晴らすことは出来ませんでした。
 優勝した、まなみのりさは東京以外の地域を拠点とするローカルなアイドルとしては、実績のあるグループですが、いわゆるご当地的なPR活動は今回の「新庄みそ」とのコラボが初めて。披露したメドレーでもPR曲は一部のみでした。


 
 例えば、まなみのりさと同じような活動形態(地方拠点でレコード会社はメジャー、また東京での活動実績も多数)のドローシーリトルハッピー(仙台)はローカルアイドルでしょうか。また反対にメジャーレーベルと契約しているだけで全国区なのか、という疑問も沸いてきます。例えばユニバーサルには、東京のライブアイドルシーンを拠点とするStarmarieや、九州の芸能事務所が運営しており東京では未だ活動実績のないQunQunなどが現在、所属しています。

 ローカルアイドルの乱立も従来のように「中央」のメジャーなアイドルがテレビを中心とするマスメディアを通じて十分に「地方」に浸透していれば、起こらなかったことでしょう。つまり現在のローカルアイドルは旧来の「中央と地方」の図式の中ではなく、単純に「活動地域が限定されている」という意味でのローカルな存在ということになって来たのだと言えます。そして、このローカル性は乗り越え可能なものです。

 もちろん、先駆者としては広島のキッズアイドルから出発したPerfumeまなみのりさの芸能スクールでの先輩)がいますが、大手芸能事務所所属の彼女たちは、そのままでは現在のローカルアイドルには参考にならないでしょう。
 現状を象徴するのはU.M.Uの初代チャンピオンで今回もゲスト出演したNegiccoです。特産品のネギをPRするユニットというPerfume以上に「ご当地性」の強い出発点がありましたが、そのPR業務も終了してるのに、より普通のローカルアイドルとして活動をシフトしながら、かと言って出自を表す名前も改名もせずに、9年のキャリアを積んできたのは稀有な事例と言って良いでしょう。
 ここでは細かい分析は出来ませんが、彼女たちも全くマスメディアの恩恵を受けていないわけではありません。まず最初にNHKの「ポップジャム」に出演していたというのが、現在まで続くアドバンテージにはなっています。その後も、ローカル番組やインターネット番組を含めて、露出の努力は続けてきた結果でもあるのです。
 その点では今回のU.M.U も主催がホリプロであったためか、比較的大きくマスメディアでも取り上げられたこともありますので、第三回も開催を期待したいと思いますが、やはり「ローカルアイドルの全国区への登竜門」という位置づけが演者にとっても喜ばしいのではないかと思います。


スキヤキとテリヤキ〜「グローカル」へ向けて 
 ということで言えば、より大きな資本を投下されているメジャーなアイドルは、更に活動を広げて行ってくれることが望まれます。もちろん48グループがジャカルタ台北に進出するというニュースは大きいですが、ここでもPerfumeの方が先の展開を見せました。
 もともと、彼女たちは国内でも頻繁にロックフェスに参加しておりアイドルファンの共同体を越えた人気を得ているのですが、昨年はアジアの音楽祭への参加に加えて、ディズニー/ピクサーのアニメ「カーズ2」サントラへの採用という大きな出来事がありました。
 ここで注目すべきなのはPerfumeは、かつてのピンクレディー松田聖子あるいは、他のアジアのアイドルで言えば、少女時代のようにアメリカに自ら進出しているわけではなく、逆に海外から招待されている状態だというところでしょう。「カーズ2」でも映画内の日本を舞台にしたシーンなので当然とは言え、日本語のそのままのヴァージョンの「ポリリズム」が使用されています。
 遡ってみれば、かつて、海外では「SUKIYAKI」として知られる日本の楽曲唯一のビルボード1位も、日本語版そのままレコードが売れたのです。 
 脱ローカルというのは決して、他の大きなスタンダードを受け入れるのとイコールではないでしょう。前述のドロシーについても従来の坂本サトルの楽曲を中心とするスタイルで十分、東京での成功を収めつつあるのに、新曲は製作陣を入れ替えて、現在の「いわゆる王道アイドルソング」に近づけて来ているのは、新曲の出来が悪くないのは別にして、若干、残念です。
 そこで、筆者としては「脱ローカル」という言葉よりも「グローカル」というのを理想形として提示したいのですが、「オルタナティブ」と同じで翻訳が難しい言葉です。
 実例を挙げるのが良いでしょう。前述の日本語のままレコードが売れた和製ポップス「上を向いて歩こう」もそうでしょう。日本発のグローカルな食文化ではテリヤキバーガーが一番、有名です。ヒップホップグループのTERIYAKI BOYZは、このような意味でのネーミングだと思いますが、彼らよりもずっと以前の1990年に、「グローカル性」をテーマにした曲を自ら作詞した、ある意味ではアイドルと呼んで言い歌手がいます。


 アップフロントの後輩のハロプロ、特にパリ公演を行う予定だというBuono!にカバーして欲しいなあ。