ドロシーについて私が知っている二、三の事柄

 昨年のアイドルポップを代表する1枚に東京女子流の『鼓動の秘密』を挙げる方は多いでしょうが、隠れた傑作はDOROTHY LITTLE HAPPY(ドロシーリトルハッピー)の『デモサヨナラ』だと思います。

 既に楽曲単位ではタイトル曲が第10回ハロプロ楽曲大賞2011のアイドル楽曲部門で2位を獲得していることからも判るように(そして前後は東京女子流の2曲)、コアなアイドルポップ愛好家からは高い評価を受けています。

 この仙台出身の5人組ダンス&ボーカルグループによるメジャーデビューミニアルバムが再編集されて、先ごろ1月11日に発売されました。

 この『デモサヨナラ2012』と題されたCDは既に今年を代表する記念碑的作品だと筆者は確信しています。もちろん音楽的な質の高さという相対的なところでは、これから様々な優れた作品が登場することは期待されますが、本作が持つ価値は、ある意味、「絶対的」なもので、だからこそ歴史に残るものです。
 これを聴かずにアイドルシーンを語っている人がいたらフェイクと認定して良い、とまで思うのですが…、まあ、そこまで大上段に構えると聴く耳を持ってくれる方も少なくなると思いますので、今回は、その価値を自ずと認めざるを得なくなるだろう情報を幾つか提供することにしましょう。

 以下、所属事務所のオフィシャルブログ「Stepone Diary」を基本的な資料として記述します。


1.所属会社ステップワンとB♭

 ドロシーは仙台の芸能事務所ステップワンから誕生しました。この事務所は1999年設立の新興企業で基本的に子役専門です。DE−WORKというスタジオでのスクールも併設されているので、恐らくは、その収益を基盤として、スクール生の中からキッズモデルを紹介したり、ダンス・ボーカルグループを組んでキッズ系のイベントでライブをしたりという活動を続けて来ていたようですが、その中から初めて本格的なティーン・グループとして全国展開しているのが彼女たち5人組ということになります。
 いちローカル芸能事務所(しかもキッズ専門)の所属アイドルグループがavexのような大手からメジャーデビューすること自体、稀なことです。


 同事務所は2005年には既にREXというキッズグループでCDを自主製作していましたが、ドロシーの母体となったのは「B♭」という現在もメンバーを一新して活動しているグループ。こちらの結成は06年10月ごろ。ステップワンにおけるキッズレベルのトップチームと認識して良いと思います(現在も12歳前後のメンバーで構成)。
 現メンバーはドロシーの後輩に当たるのですが、元々はB♭からの選抜メンバーがドロシーなので、最近B♭の紹介で使われている「ドロシーの妹分」という表現に違和感を抱く古参ファンが多いのは、このような経緯からでしょう。

 ドロシー・メンバーのB♭での歴史を紐解くと、リーダーの白戸佳奈さんは事務所でも古株で数々のキャリアがある元ローカルキッズタレント、モデル。B♭結成時からのメンバーで、こちらでもリーダーを務めていました。その白戸さんの活動に感化されてステップワンに入所したというのがメインボーカルの高橋麻里さんで彼女もB♭に加入します(記録がありませんがオリジナルメンバーのよう)。続いて秋元瑠海さんがメンバーに加わったのが07年の7月

 少し遅れて2008年12月。当初は「B♭Supportアイドル」というかたちで参加したのが富永美杜さんとなります。


2.ドロシー以前(以外)の全国展開

 さて、残る現メンバー早坂香美さんの前に、もう一人オリジナルメンバーの鈴木美知代さんについて触れておかなければなりません。別ユニットで活動していた彼女も富永さんに続いて(というか正式メンバーとしては先に)同年同月B♭に加入します。
 ステップワンはB♭などのユニットの活動と平行して全国区のオーディションに積極的にタレントをエントリーすることで既に幾つか実績を作っていて、鈴木さんも翌09年度の「天才てれびくんMAX」のてれび戦士に選ばれます

 また彼女は07年8月のavexのオーディション歌部門で準グランプリを受賞しているのですが、前年の12月にステップワンからモデル部門で、グランプリの受賞者がいます。ご存知の方もいると思いますが現在、東京女子流のセンターとして活躍する新井ひとみさんです。
 何故かこちらのオーディションに関連する記事がステップワンのブログに無いのですが、前述のREXのメンバーとしても活動していた新井さん(オリジナルメンバーではないよう)。オーディション後はavexの育成過程を経て、その後、女子流でデビュー。
 このような実績とコネクションにより、ドロシーがavexからメジャーデビューすることなったと推測されます。

新井ひとみさんの情報については「BBRK」の過去ログを参考にさせていただきました。


 話をB♭に戻すと2010年2月に大きく事態が動きます。B♭から白戸・富永・秋元が全国展開用のユニットBee☆F.L.T.(ビーフラット)として選抜され、活動を開始。非常に本体と区別しにくいネーミングですが、本人たちが思い入れの深いB♭に近いグループ名を希望したためと説明されています。
 東京でもサンシャインシティ噴水広場でライブを開催。

 更に、そこに高橋・鈴木が加わった5人がドロシーリトルハッピーとしてシングル「ジャンプ!」で全国CDデビュー(インディーズ)することが発表されたが7月7日、七夕の日。名付け親にして楽曲プロデュースに坂本サトル氏を新たに迎えての出発でした。
 しかしセカンドシングル「冬の桜 〜Winter flower〜」を発売する前月の11月に鈴木さんが学業優先を理由に突然の活動休止。そこで新たにメンバーに加わったバックダンサーの一員、早坂香美さんでした。


 ドロシーのバックダンサー出身といえば石田亜佑美さん(モーニング娘。10期メンバー)がいます。「元ドロシーのメンバー」のような誤解もあるようなので、単独ではHAPPY DANCE(ハッピーダンス)としても活動する、こちらのチームの歴史についても少し触れて起きましょう。
 元々はFlat6というユニットが前述のBee☆F.L.T.が選抜されたのと同じ時期に誕生していました。早坂さんは、元々はこちらのメンバー。

 彼女らのほとんどがハッピーダンスへ移行しますが、石田さんは中途でB♭からハピダンに加入



 こちらはFlat6時代からの楽曲だとのこと。

 その後、石田さんは脱退して、同じハピダンのメンバー田中風華さんと共にモーニング娘。オーディションへ参加。


 震災後の3月16日にドロシーはミニアルバム『デモサヨナラ』でメジャーデビュー。そこにはB♭時代からの楽曲「Hi So Jump! 」のRemixヴァージョンとインディーズ時代の楽曲のリメイク「Winter blossom 〜冬の桜〜」が収録されました。
 その後のヒストリーについては多くが語られているので、ここでは詳述はしません。


 再編集盤『デモサヨナラ2012』ではデビュー曲「ジャンプ!」と同じくインディーズ時代の楽曲でライブでは非常に重要な「ソウル17」の現メンバーによる再録音ヴァージョンが収録される一方で「Hi So Jump! 」が除かれ、坂本サトル氏による純粋なプロデュース作品となっています。


 繰り返しになりますが、ローカル芸能事務所のアイドル・グループがメジャーデビューすること自体が、かなり稀なことでしょう。その点では、アクターズスクール広島所属でポニーキャニオンからデビューした、まなみのりさと近い路線を歩んでいるとも言えます。しかし、比較して、年齢的には若くメジャーなステージに立ち、明確なブレイクへのステップを進んでることからすると、まみりの先輩Perfumeの歩んで来た道程に近いペースと考えるのも大げさではありません。ただ、Perfumeは大手事務所所属でのメジャーデビューでしたから、ドロシーは運営基盤の点では遥かにローバジェットです。
 このような環境化で、一定の成功を収めつつあるというのは、スタイルが大幅に異なる例で言えば、札幌ローカルの芸能スクール系事務所から登場したZONEに次ぐ快挙と言って良いのかもしれません。
 もちろんZONEクラスの成功は、未だかなり遠いものです。しかしガールズバンドの形態を借りたZONEに対して、最新アイドルの本流にあるダンス&ヴォーカル・グループとしてのドロシーは地方拠点のアイドルとしては未踏の地を歩んでおり、注目せずにはいられないのです。