アイドルラップの現在

早見あかりの「ラッパー引退」から2年が過ぎた。
そもそも、アイドルラップというのは、ある種「風流」なものとして好事家から愛好されていたのだけど、早見あかりの低音の効いたラップが登場してから全く次元が変わってしまったんじゃないかと、思う。

プロの宇多丸氏も高く評価する「行くぜっ!怪盗少女」だが、その「Z」ヴァージョンも、その低音部が無くなってしまって歌いだしから全く別ものになってしまった。

6月5日発売のインディーズ楽曲を収めた『入口のない出口』に収録されている「ツヨクツヨク」などのカバー曲を聴くと、早見さんのラッパーとしての真価が、より明確になると思います。ももクロも漸く日本語ラップの大御所たちの制作による最新アルバム収録曲「5 The POWER」でアイドルラップシーンに返り咲いたと言えるんじゃないかな。


先の2010年における宇多丸氏の評も「風流」な視点から行われているのは明らかで、その視点は完全に過去のものになりつつあると私としては感じずにはいられませんね。
その先鞭をつけたのは「行くぜっ!怪盗少女」登場と同じ年に誕生した「ヒップホップアイドルユニット」を明言するグループから始まったと言える。それは言うまでもなく現在リリカルスクール名義で活動するtengal6です。

tengalも元はTENGAのスポンサードという企画色の強い出発点を持っているにしても、その制作の方向性は当初から非常に本格的なもの。デビューミニアルバム「まちがう」で聴けるラップは本来低い地声のerikaとmariko以外のメンバーも意識的に低く抑えられていて、従来のアイドルラップとは全く違ったスタンスが極めて強く感じられる。
(mariko卒業に伴い新加入したhinaも比較的低音の声の持ち主で、プロデュースの方向は明確ですね)。

この愚直ともいえる正統派なスタイルから、ayakaのキュートヴォイスなどメンバーの素の声を活かして、アイドル的方向に深化(転向ではない)させた2011年11月発表の初シングル曲「プチャヘンザ!」はアイドルラップ新時代を代表する一曲と言える。

この曲の作詞作曲は、ももクロ楽曲のリミックスなどでシーンに登場した新進気鋭のトラックメーカーtofubeatsによるもの。先ごろ初のソロアルバムを発表した彼は当時まだ大学在学中で、メンバーとも同世代という点でも正に新時代の到来を印象づけますね。


そもそもラップ自体、は90年代半ばでもノベルティ(企画もの)として日本のポップス界では考えられていたし、アイドル歌謡においてもそうだったわけで、嵐やつんく♂さんが、そこにかなり風穴を開けていたとは言え、ようやくラップだけやって、それでも企画ものに終わらないグループが出来たのが最近ってことになるのでは。
しかし、良く考えてみれば本格的な日本語ラップの初のヒットと言えるEAST END×YURI「DA.YO.NE」(1994)は、広義には「アイドル」と言っていい東京パフォーマンスドール市井由理のラップをフィーチャーした企画ものから出発しているわけで日本語ラップとアイドルとは歴史的に深い関係にある(実際、宇多丸の所属するライムスターも制作に関わっている)。
その「DA.YO.NE」でもサンプルされているフレーズを再引用した次の曲をリリカルスクールと改名してTENGA企画ユニットとしての色を払拭した彼女らがパフォームしているのも面白い。これもtofubeats制作によるもの。


2011年には、もう一つのアイドルアップユニットが誕生している。結成当時、全員が中学生だったライムベリーは、ほぼ歌の要素を入れずにラップすると言う点では更にハードコアなスタイル(楽曲がスチャダラパーの影響下という点ではナードコア)。
「HEY!BROTHER(ねえお兄ちゃん!)」などのアニメ声優系萌えラップユニットMOE-K-MCZの過去曲をカバーすることから始まったユニットだけれど、今年リリースしたオリジナルな新曲収録のシングル「R.O.D./世界中にアイラブユー」の後者ではハーコーなナードコアスタイルを残しつつ、こちらもアイドルラップ方向に深化していると言えると思います。

リリスクとライムベリーは過去2回の2マンライブを行っており、現在は共にT-Palette Recordsに所属しているということで、ここ数年で小さいながらも完全に一つのシーンが形成されてしまったのは嬉しい驚き。サンプリングの著作権の問題で未だ音源化がされていないライムベリーの傑作「MAGIC PARTY」のCDがされれば、このシーンも大きく広がる可能性を孕んでいると感じずには居られません。


更に言えば東京だけではなく、他地域にも、このシーンにリンクするような面白い動きがあるのが要注目。
九州発のアイドルLinQの制作を手がけていたH(eichi)さんとSHiNTAさんのチームがプロデューするTRICK8fの妹分的なユニットとして2012年に結成されたAYUとSAYA2人組ガールズユニットFantaRhymeは、より自由度の高いヒップホップ的な音楽性を持つ、今最も興味深いニューカマー。

先日、西麻布elevenで行われたTRICK8fFantaRhymeのライブイベントはイイキョク満載の素晴らしいパーティでした。筆者はなかなか地元の福岡までは足を運べませんが、また東京でイベントがあったら絶対に行きたい!
長くなってますが、福岡と言えば、やっぱり紹介しておかないと行けないpringBell feat.MIKAの「こどもラップ」。だけど、これ音楽的に凄いと思いますよ。T-Painっぽい(超適当)

無理やり組み込めば鎌ヶ谷のヒップホップダンスユニットKGY40 Jr.もシーンの中にあると言っても良いかも(笑)。
ま、こんな風に色んな地域に広がっていけばアイドルラップシーンも更に面白くなるかなと思います。そもそも地元レペゼンはラップの主要テーマですし。


そんなわけで、こどもから大人まで幅広いラッパーが揃ってきたシーン。
本当は、もっと深くアイドル文化とヒップホップ文化のシンクロ性とかについても考えてみたいとは思っているのですが、荷が重いし、これからシーン自体が明らかにしていきそうな期待もあるので、今回はこのへんで(あ、hy4_4yhも実はラップ凄く上手いよとかも触れておきたかった)。