アイドルラップの現在

早見あかりの「ラッパー引退」から2年が過ぎた。
そもそも、アイドルラップというのは、ある種「風流」なものとして好事家から愛好されていたのだけど、早見あかりの低音の効いたラップが登場してから全く次元が変わってしまったんじゃないかと、思う。

プロの宇多丸氏も高く評価する「行くぜっ!怪盗少女」だが、その「Z」ヴァージョンも、その低音部が無くなってしまって歌いだしから全く別ものになってしまった。

6月5日発売のインディーズ楽曲を収めた『入口のない出口』に収録されている「ツヨクツヨク」などのカバー曲を聴くと、早見さんのラッパーとしての真価が、より明確になると思います。ももクロも漸く日本語ラップの大御所たちの制作による最新アルバム収録曲「5 The POWER」でアイドルラップシーンに返り咲いたと言えるんじゃないかな。


先の2010年における宇多丸氏の評も「風流」な視点から行われているのは明らかで、その視点は完全に過去のものになりつつあると私としては感じずにはいられませんね。
その先鞭をつけたのは「行くぜっ!怪盗少女」登場と同じ年に誕生した「ヒップホップアイドルユニット」を明言するグループから始まったと言える。それは言うまでもなく現在リリカルスクール名義で活動するtengal6です。

tengalも元はTENGAのスポンサードという企画色の強い出発点を持っているにしても、その制作の方向性は当初から非常に本格的なもの。デビューミニアルバム「まちがう」で聴けるラップは本来低い地声のerikaとmariko以外のメンバーも意識的に低く抑えられていて、従来のアイドルラップとは全く違ったスタンスが極めて強く感じられる。
(mariko卒業に伴い新加入したhinaも比較的低音の声の持ち主で、プロデュースの方向は明確ですね)。

この愚直ともいえる正統派なスタイルから、ayakaのキュートヴォイスなどメンバーの素の声を活かして、アイドル的方向に深化(転向ではない)させた2011年11月発表の初シングル曲「プチャヘンザ!」はアイドルラップ新時代を代表する一曲と言える。

この曲の作詞作曲は、ももクロ楽曲のリミックスなどでシーンに登場した新進気鋭のトラックメーカーtofubeatsによるもの。先ごろ初のソロアルバムを発表した彼は当時まだ大学在学中で、メンバーとも同世代という点でも正に新時代の到来を印象づけますね。


そもそもラップ自体、は90年代半ばでもノベルティ(企画もの)として日本のポップス界では考えられていたし、アイドル歌謡においてもそうだったわけで、嵐やつんく♂さんが、そこにかなり風穴を開けていたとは言え、ようやくラップだけやって、それでも企画ものに終わらないグループが出来たのが最近ってことになるのでは。
しかし、良く考えてみれば本格的な日本語ラップの初のヒットと言えるEAST END×YURI「DA.YO.NE」(1994)は、広義には「アイドル」と言っていい東京パフォーマンスドール市井由理のラップをフィーチャーした企画ものから出発しているわけで日本語ラップとアイドルとは歴史的に深い関係にある(実際、宇多丸の所属するライムスターも制作に関わっている)。
その「DA.YO.NE」でもサンプルされているフレーズを再引用した次の曲をリリカルスクールと改名してTENGA企画ユニットとしての色を払拭した彼女らがパフォームしているのも面白い。これもtofubeats制作によるもの。


2011年には、もう一つのアイドルアップユニットが誕生している。結成当時、全員が中学生だったライムベリーは、ほぼ歌の要素を入れずにラップすると言う点では更にハードコアなスタイル(楽曲がスチャダラパーの影響下という点ではナードコア)。
「HEY!BROTHER(ねえお兄ちゃん!)」などのアニメ声優系萌えラップユニットMOE-K-MCZの過去曲をカバーすることから始まったユニットだけれど、今年リリースしたオリジナルな新曲収録のシングル「R.O.D./世界中にアイラブユー」の後者ではハーコーなナードコアスタイルを残しつつ、こちらもアイドルラップ方向に深化していると言えると思います。

リリスクとライムベリーは過去2回の2マンライブを行っており、現在は共にT-Palette Recordsに所属しているということで、ここ数年で小さいながらも完全に一つのシーンが形成されてしまったのは嬉しい驚き。サンプリングの著作権の問題で未だ音源化がされていないライムベリーの傑作「MAGIC PARTY」のCDがされれば、このシーンも大きく広がる可能性を孕んでいると感じずには居られません。


更に言えば東京だけではなく、他地域にも、このシーンにリンクするような面白い動きがあるのが要注目。
九州発のアイドルLinQの制作を手がけていたH(eichi)さんとSHiNTAさんのチームがプロデューするTRICK8fの妹分的なユニットとして2012年に結成されたAYUとSAYA2人組ガールズユニットFantaRhymeは、より自由度の高いヒップホップ的な音楽性を持つ、今最も興味深いニューカマー。

先日、西麻布elevenで行われたTRICK8fFantaRhymeのライブイベントはイイキョク満載の素晴らしいパーティでした。筆者はなかなか地元の福岡までは足を運べませんが、また東京でイベントがあったら絶対に行きたい!
長くなってますが、福岡と言えば、やっぱり紹介しておかないと行けないpringBell feat.MIKAの「こどもラップ」。だけど、これ音楽的に凄いと思いますよ。T-Painっぽい(超適当)

無理やり組み込めば鎌ヶ谷のヒップホップダンスユニットKGY40 Jr.もシーンの中にあると言っても良いかも(笑)。
ま、こんな風に色んな地域に広がっていけばアイドルラップシーンも更に面白くなるかなと思います。そもそも地元レペゼンはラップの主要テーマですし。


そんなわけで、こどもから大人まで幅広いラッパーが揃ってきたシーン。
本当は、もっと深くアイドル文化とヒップホップ文化のシンクロ性とかについても考えてみたいとは思っているのですが、荷が重いし、これからシーン自体が明らかにしていきそうな期待もあるので、今回はこのへんで(あ、hy4_4yhも実はラップ凄く上手いよとかも触れておきたかった)。

48グループ − 乃木坂46 = ?

「制服とマネキン」といい「君の名は希望」といい、乃木坂の最近の曲良いですよね。この点では48グループのライバル、というか個人的には断然、勝ってると思います。
 というところから始まる雑談です。
 乃木坂については、オーディション時点でのYOSOUが大はずれで…そのために語るのを避けてたわけでは無いですよ!


 ふと、乃木坂の「46」って「48」よりも「2つ足りない」ってことなんじゃないか、と思ったわけです。「『AKB48』より人数が少なくても負けないという意気込み」を込めたって公式では言ってますが、まあフォーマット販売してる48グループの形式とは違う、ってことなんじゃないかと。
 一つは当然、「専用劇場」だろうな、と。もう一つは何かな…と考えてまして、当たり前すぎるけど「総選挙」でしょうかね。もちろん乃木坂もミュージカル公演の役を投票で決めるということはやっているわけですけど、これは選抜総選挙とは違うものですから。
 結局は総選挙は一つの「お祭り」で実際のところ、客観的な人気は、そんなことをしなくても握手会をしてるわけですから、ちゃんと数値化可能ですよね。ただ「お祭り」は無いので、ファンは「参加」しているという感覚は48グループよりも少なくなるでしょう。これは専用劇場の公演が無いってことも、そうですが。


 ただ乃木坂自体は、48グループの育成スタイルとは違ったところを狙っているんじゃないかと思うところもあります。
 まず年齢層も高いですし、経験値もスキルもある程度あるメンバーが多いのは周知のところです。48グループが中高ぐらいだったら、乃木坂は大学ぐらいな感覚でしょうか。もっと即戦力を育てる場のような感じもありつつ、既に色々とソロ仕事も始まっているところ。ソニーは芸能事務所もやっているので、メンバーは、その研修生や新人タレントぐらいの位置なのかと。


 ということで、諸々とレベルは高いんですが、やっぱり歌唱の点では匿名性が高いですよね。もっと下の年代の、さくら学院が個性的なのと比べると…。それからAKBと比較してもそうだと思います。そのために曲は極めて良質なのに「特別なもの」が感じられないんですよね。
 秋元氏の歌詞も(私は基本的に評価してないんですが)、48系では出してる下世話さや「生」な部分ところを抑えて、上品に、余所行きにしてるようなところもありますし。これは本当、歌詞も他の人に任せた方が48グループと差別化できて、良いと思うんですけどね…。

 

極私的東京女子流論(でも話はEspeciaから始まる)


 最近、所謂「楽曲派」(笑)寄りのアイドルファンの間で話題を集めるEspeciaですが、極私的な第一印象として「こりゃ意図的か無意識かは別にして女子流に対して批評的に機能するなあ」と思いました。
 曲を聴いていただけば判るように音楽的には、女子流に結構、重なるような80年〜90年代のAORあるいはアーバンソウル系のサウンド。でも女子流は美少女アイドルグループなのに対して、こちらは思いっきりリバイバル感を強調した、その頃、バブル期にはブイブイ言わせてただろう大阪オバチャン系ファッションを纏って「堀江系」を標榜するグループ。まあ正直、女子流って、この頃の音に馴染みのあるオジサンが「古参」としてファンに中心にいるわけで、そういうところを明るみに出しちゃったかなあ、というのが先の印象に通じてるわけです。
 ということでEspeciaの話はここまでですが、初見で興味を持った方はメンバー的には脇田もなりさん(ひょう柄のブラウス着てる人です)に注目して見ていただければと思います。


 さて女子流に関しては一応、デビューの2010年から知っていてライブも見てるんですが、ワンマンって実はまだ行ったことないんですよね。評価はしてるんですけど、そこまで熱心じゃないリスナーで、気が付いたら、ここでもフィーチャーしたことが無かったな、と気が付きまして、今回、書いてみようと思った次第。
 まず年齢が低すぎて推しにくいというのもありますが…って言ったら、前に大フィーチャーしたさくら学院だって同じじゃん!
 だから、深く考えると、それが理由じゃないんだろうな…。


 もう、武道館も経験した存在なのでシビアに書いても良いでしょうが、女子流ってライブでの歌唱に結構、難点の多いグループです。でも、それも他のアイドルと違って、ほぼ完璧な生歌だっていうところが原因のところもあり。
 実際のところ、「生歌でやっている」と言われるグループでも、コーラスやダブルボーカルはカラオケに入っているところがほとんどです。つまり厳密に言うと、口パクじゃなくても、程度の差はあれ「かぶせ」。そこを女子流は、完全に生でやってるわけで(ああ表現が悪いけど、他に思いつかない)、武道館でも展開したバンドスタイルであっても、全部出来るぐらいにしよう、と言う方向性なのかな、と思われます。他と同じようにやれば、もっと「耳障り」は良いのに、あえてそうしてないというように感じられるところ。


 というところから、マネージメントを担当する佐竹氏の育成哲学が如実に見えるところで、楽曲についても各所で氏が語っているように、メンバーが歳を重ねても歌っていける「大人な」ものにしている、とのことです。でも、そのために犠牲になっている部分もあって、やっぱり音楽的な傾向がファン層を狭めているかな…というところはあり。企画物的な定期ライブではカバーもやるんですが、これも古い、まあオジサン向けの曲が多いですし。
 ただ、驚いたのが最近、PSY「カンナムスタイル」をカバーしてるんですね。これを、やっとライブで見たんですが凄く面白いです。「カンナムスタイル」自体、まあ欧米の所謂エレクトロ・ダンス・ミュージック(EDM)、というか、LMFAOの「Party Rock Anthem」あたりにインスパイアされた曲なわけですが、女子流が初めて最新流行のサウンドに挑戦したんじゃないか、という。元曲やってるのは韓国人のオッサンですけど。

 まあ、カバーしたのにはエイベックス的な背景があるかもしれないですが(笑)。でも、やっぱり流行り物はやって欲しいですよね。モーニング娘。が完全にEDM路線に振ってる昨今ですので。実際、エバーグリーンなサウンドを目指しても、実際のところは、制作されたときの時代性は、かならず残るわけで。
 ただ、逆に言うと、女子流が今やってる音楽が本当にリバイバルして流行する可能性もある、というか、かなりありうる。というのがEspeciaの登場からも判るところ。もしかすると女子流自体、それを見越してやってるという見方も出来るかな。アイドルというのは、まずメンバーのヴィジュアルやキャラクタから入るパターンがあるわけで、既に、ファンが拡大していっているのにつれて古参とは違った若い層が着いてきているようでもあります。その流れで所謂ピンチケ層にも、この手のテイストが受け入れられていくんじゃないかと。それから女性にも広がっていく期待もありますね。
 例えばEspecia以外でも、LinQの楽曲を手がけていたH(eichi)さん&SHiNTAさんのコンビがプロデュースするダンス&ボーカルグループTRICK8fとラップユニットFantaRhymeのアーバンサウンドは、より現代的な音ですが、つながってます。個人的にはprediaも同傾向から再評価(?)されて欲しいところ。ニューアルバム聴けてないですが、女子流のサウンドプロデューサーでもある松井寛さんも参加してるみたいですし。もちろんNegiccoも(って、かなりトマパイのやっていた定期クラブイベントPS2Uに出演してる面子にかなり重なってますが、まあ、そういうこと)。よりアメリカ最新系R&Bサウンドということではフェアリーズはもちろんですが、アイドルストリートの新グループGEMが、より注目かと。


 ただ、短期的に見ると女子流がブレイクするには、ちょっと懸念材料もあるかと思います。
 まずデビュー時からの歌唱の中心であるはず、小西さんがライブで、かなり不安定さを見せているのが心配です。本来なら最年少の新井さんが成長してくるところで、小西さんと並んで、ボーカル面での2トップとして活躍するというのがプランだったんじゃないかとも推測できて、実際、代表曲ともいえる「Limited addiction」は、そういう作りなんですが、今は歌でもレベルアップした新井さんが完全に中心になってきてる感が。この点が、諸々、バランスの悪さにつながっていくと、ブレイクの遅れにもつながるかと。
 武道館は女性グループ史上最年少公演を狙って、あのタイミングしかなかったところで、年齢的には急がなくても良いところはありつつ、その後の今年の展開は、やっぱり「武道館後」を見据えないといけない。そう考えると、去年は武道館と言っても客席数を抑えたステージだったので、今年は、より動員を増やして再チャレンジという見せ方も一つありかな、とは思います。
 ともあれ、武道館をやったからと言って、それを売りに安易にテレビのゴールデン枠でマスな訴求も図っていないところで、着実、堅実に大きくしていこうとしている運営は好感が持てますね。
 

しばらく更新してないんで、雑談でお茶を濁す回です。

 前回、ドロシーリトルハッピーのアルバムに収録される新曲の作家についてYOSOUしましたけど、坂本サトル待望が強すぎたようで…。結局、新曲は「14回目のありがとう」だけでした。アルバムについてのお話は、また別の機会に出来れば。

 さて、もう一方の地方発アイドルの先頭を走るNegiccoも新曲が出ましたし、10周年を記念してオリジナルアルバムを出したり、その前に、もう一枚シングルを切る計画もあるようで、かなり夏まで色々とシーンは活況を呈しそうな様相。
 正直、個人的には長くNegicco楽曲を手がけて来たconnieさんオンリーのアルバムを期待してたんですが、このへん本当のブレイクへのステップアップを狙うとともに今までの路線も尊重した西寺郷太楽曲の「愛のタワー・オブ・ラブ」は素晴らしいサウンド
 ちょっとレーベルメイトの他のグループの新制作陣による最新シングルが正直、詰まらないものだったので、心配してましたが杞憂でした。やっぱりT-Palettは、こうでなくちゃね!!(強調)

 もう、いずこねこやEspeciaなど、普通にポップスとして聴いて極めて高レベルな新譜が出てきてるところですし、もう「商法」を中心としたアイドルブームも、そろそろヤバイところで、何かが起こりそう。

 基本的に、このブログは、しっかりした文章を書くことを自分に課してやりつつ、できたりできなかったり、というものなんですが、ちょっと、そのへんの限界も出てきたのでtumblrをメモ代わりに活用しようかなととか考えてます。→こちら
 そうすれば今、twitterをメモ代わりしてるのも解消できるかなあ。まあ拡散はしやすいんですが、あっちの方が。

 ということで、こちらが月一回ぐらいの更新になる可能性もないではないかな。

ドロシーの創造的壊崩 あるいは 「第三章」も忘れよう

 今回は済みませんが一見さんお断り、既にタイトルからして判りにくいですが、ドロシーに詳しい人向けに、細かい説明を省略して進めますので、ご了承のほど。既にドロシーとしか言ってないし。その他の音楽用語も、ちょっと不親切な書き方になりますが、ご容赦を(と前置きが長くなってますが)。

 ということで「GET YOU」収録の坂本サトルさんによる久しぶりの作曲&プロデュース作から。

 初の「失恋ソング」であると共に、初のサトルさんによるストレートなロックナンバー…というと「ジャンプ!」だってロックじゃないかと言う声が出てくると思うんですが、今回のポイントがここです。


 まず「ジャンプ」はサウンド的にはハードなギターが入ってますが、ビートはモータウンのH=D=Hのそれですよね。同じく小西貴雄さんアレンジの「ソウル17」は、それこそソウル、プライマル・スクリーム経由のストーンズみたいなR&B調。
 現在の坂本制作曲のアレンジャー安部潤さんを初めて迎えた「冬の桜」では四つ打ちが導入されて、歌詞的にも続編と言って良い「デモサヨナラ」も同じ四つ打ちでディスコ寄りのビート。同曲がタイトル曲のデビューミニアルバム収録のその他の曲も基本、R&Bやファンクの要素が強くて、このへん以前、私はAORという言い方もしたんですが、スクエアに二拍四拍にスネアが入るようなロックの曲は今回の「壊れちゃう崩れちゃう」までサトルさんの曲では無かったんですね。
 アルバムのタイトル曲になった「Life goes on」はギターロック的なサウンドですが、発表当時も「マンチェスターじゃん」って言われたぐらいの音で(このへん私があまり詳しくないんで曖昧に…)、単純なロックビートではないです。
 だからこそ初期はカバーですが唯一のストレートなロックナンバー「臨戦態勢が止まらない」が映えてたという部分もあったんじゃないか、と。

 ところが所謂第二章の「HAPPY DAYS!」収録曲は、ほぼ二拍四拍スネア。「飛び出せ! サマータイム」についてもツキダタダシさんの曲は同じです。メンバーも「サトルさんの第一章はロック」というようなことを言っているんですが、私基準ではちょっと違うんですね。前述のような理由で第二章の方が「ロック」に感じます。

 
 「GET YOU」収録曲はタイトル曲と「nerve」のBiS関連のところも今までのドロシーの歌詞世界からすると「挑戦的」ですが、「壊れちゃう崩れちゃう」は歌詞サウンド共にサトルさんが復帰したからと言って決して原点回帰ではないものです。意図的に違うテイストを持ち込んでイメージを崩すとともに新しいステージに持っていくような、これこそプロデュースって言うじゃないかと。
 逆に第三章の始まりとして発表された「風よはやく」の方が第二章から第一章にもう一度揺り戻すような方向性で、タイトル曲と「永遠になれ」は共に遅めの四つ打ちで歌詞内容も「冬の桜」、「デモサヨナラ」を意識したようなところがあります。このへんは、ディレクターさんが、かなり意図的にやったんじゃないかな…。

 
 さて収録曲タイトルも情報公開されたアルバムを少しプレビューしておくと既に「My Darling」がライブで披露されてます。


「夢見る少女じゃいられない」を始めとした相川七瀬の曲へのオマージュかつアンサーソングのような「かなり意図的に狙ってるけど大マジな」歌謡ロックで、こちらもサトルさん制作の可能性あり。ちょっとロック寄りの曲が続いているので、若干不安にもなりますが、とりあえずBiSとの対バンを意識して先に仕上げて来たという考え方もできるかな、と。
 もう一曲、Honda Carsの15秒CMのタイアップ曲として既に公開されている「Dear My Friend」は、ちょっとギターポップ寄りかなと思われる曲。これもサトルさんっぽい。
(1月27日後記)まだ公式情報ではないですが、どちらもサトルさんじゃないようです…。



 ともあれ、そもそも「第二章」というのも何らかの理由でサトルさんが一回、離れることになったことに対するエクスキューズでしかないのは明らかなので…。もう第三章は、どんな方向性なのと言っても、これだけバラエティに富んだ楽曲が年末年始数ヶ月でコラボ合わせて7曲レパートリーに加わっているので、非常にハイペースですね。加えてアルバム曲で「Dear My Friend」含めて4つライブで披露してない新曲があるので更に増えると言うことで、それをどう組みあわせてライブを作っていくか、という段階に入ってます。ロック的な曲が増えても、そうでない曲も既に沢山ありますし、そういう多様な曲を表現するメンバーたちの技量も、今回は細かく触れられませんでしたが、向上して来ています。期待して今週末の定期ライブ初回を迎えたいと思います。

「GET YOU」ドロシー盤をレビューするよ!(フィーチャリング早坂香美で)

 さて発売されたBiSとDorothy Little Happyのコラボシングル「GET YOU」。ドロシー盤、非常に充実した内容となっています。何よりもタイトル曲以外のカップリング2曲で坂本サトルさんがプロデューサーに復帰というのが大きいですが、こちらについてはオリジナルの「壊れちゃう 崩れちゃう」と合わせて次回にでも。まずは今回もタイトル曲のドイヒーなPVから。

 さて初めて、このPVで歌にパート割が判って驚いたのが、歌い出しがドロシーの早坂香美さんから始まるところでした。というのも、最近まで彼女はグループの中でも一番、控えめなポジションで来ていましたから。このへん御自身の性格もあるのかもしれませんが、まずはグループ結成当初はバックダンサーで、その後にメンバーとして加入したという経緯から来るものかもしれません。ステージ上では、ダンススキルを活かして全体を盛り上げる役割が、これまでは多かったように思います。

 とは言え、私個人的には初めて彼女たちのステージを見たときから結構、彼女には注目しておりまして、下世話な話になってしまいますが…。ドロシーのことを初めて知ったのはエビ中、momoさんと共演した時にスタダの偉い人が、こんなツイートをしてたからだったりするのですが。

ドロシー さんもスキル高いです。一人ずぬけて ビジュアルのよい子が いました。

これを念頭に置いてTIF2011でドロシーを見たとき、早坂さんと富永美杜さんと「どっちのこと言ってたのかな」と思ったぐらいに…まあ、このへんは「好み」の問題ですので。


 ということで、ずっと早坂さんは「ダンスが上手だなあ」という認識だったのですが、「GET YOU」を聴いて「あ、歌もかなり行けるじゃん」と思った次第。
 シングルに収録のBiSのカバー「nerve」ではドロシーの曲では初めてと言って良いほど高橋さん以外もソロで回す部分が中心になっているのですが、こちらでもかなり活躍してます。古川昌義さんのカッティングギターをフィーチャーして、原曲から、かなりファンキーな方向にアレンジしたサトルさんの見事なプロデュース。是非CDで聴いて欲しいです。

 良く「見た目は大人 中身は子供」みたいなアイドル定番の自己紹介がありますけど、これを使わない早川さんの方が実際、ドンピシャでそういうところがあって、ブログや公式twitterでのツイートとか見てると判りますが、「nerve」の方の振りは彼女の茶目っけの部分が良く出ていると思います。

 逆に「GET YOU」ではドロシーメンバーの中でも大人っぽい部分の良さが出ていますし、音楽ではマルーン5とかがお気に入りらしい、というところからも「GET YOU」はかなり好きな曲調だろうなあ、ということが予想されまして、かなり御本人もノってるし、本曲に対しての気持ちが強い様子が見受けられます。


 それにしても振り返ってみればドロシーの代表曲の「デモサヨナラ」でもBメロでは秋元瑠海さんと共に左右で歌っていて、CDの音源では結構、しっかりと歌声が聴けるところ。なのに何でヴォーカルで目立たなかったか…と考えると、やっぱりステージで歌うことに慣れてなかったんじゃないかと思います。例えば最近はなくなりましたが一年前ぐらいまでは、下記の動画でも確認できるように音を取るためにか、右耳を押さえることが多かった早坂さんです。

 早坂さんはドロシーに加入したのが最後というだけじゃなくて、メンバーの中では事務所ステップワンに入ったのも一番、遅いんですね。ステップワンの特徴として、小学校低学年から活動している人たちも多く、また一般客も観るオープンスペースでのイベントも経験豊富ということで、例えばメジャーデビュー組以下のトップグループであるB♭(ドロシー、Party Rockets、それから現モー娘。の石田さんも、ここ出身)でも非常にステージ慣れしていて、一般的なローカルアイドルに比べて実践=実戦に頗る強い、というところがあるわけですが、その中でもステージ経験が少なく、しかもバックダンサーをしてた早坂さんは、なかなかステージ上ではヴォーカルで力を発揮できずにいた、というのが事実かもしれません。

 そんなところで早坂さんが総合的なスキルを発揮し出して、目立ってきたところで、まだまだグループとしても実は結構、大きな伸びしろがあったことが判明。これからが本当の意味でグループ一丸となったパフォーマンスを魅せてくれることが期待できます。
 またまた次回に続く。

BiS×ドロシーのコラボシングル「GET YOU」が狙う「その先」

 BiS特有の"ドイヒー"な狙いにドロシーが巻き込まれた「ビンタPV」で、後者のファンに波紋を投げかけたコラボシングルのタイトル曲。ですが、曲自体はダサンブルな最新エレポップサウンドアイドルソングに見事に落とし込んだ良曲。所謂PPPHが出来るBメロも用意されてます。

 ドロシーファン目線で言えば、メジャーデビュー前に加入したことで比較的控えめなポジションを取ってきた早坂香美さんが大きくフィーチャーされたことが注目ポイント。こちらについては、また別の機会に詳述したいと思っています。


「GET YOU」の歌詞内容は聴いていただいたように、一人の男性を奪い合う女性たちの心情を歌ったものですが、コンセプトおよびシーン状況から見れば、BiSとドロシーという普通に考えればコラボするのが考えられない両極端なグループ(衣装の白と黒との対比でも表現されています)を競争というフィールドで会いまみえさせると同時に、逆に2組が協力することで他のグループと競い合うという二重になった戦略も見えてくるところです。PVのラストで、ドロシーの後ろにBiSが並び立つ姿は、そんな複雑なあり方を示すことを意図しているのかもしれません。


 このシングルは来る1月9日にBiS盤とDorothy盤の2形態で発売されますが、同日には、さくら学院から派生したユニットBabyMetalとSUPER☆GIRLの妹分であるCheeky Parade(チーキー・パレイド)の、それぞれのメジャーデビュー作になるシングルもリリースされるところで、近年のアイドルブームも、いよいよピークになるような新春早々のリリースラッシュ。特にチキパの方はBiSならびにドロシーと同じレコード会社avex内のアイドル専門レーベルである「iDOL Street」の第2弾として満を持して華々しくデビューするグループということもあり複雑な様相を呈しているとも言えます。実際のところ発売はチキパの方が先に決まっていたところでもあるので、わざわざ同日にブツけてきてるということも、裏読みし過ぎでないかも…。


 AKB48の大きなブームが「センター」前田敦子の卒業で一つのピークを過ぎるとともに、ももいろクローバーZの本格的なブレイクが起こり、48グループの寡占状況に風穴を開けたところで明けた2013年。本来なら、ここ数年言われていた「アイドル戦国時代」という言葉は、これからのシーンを言い表すものこそが正しい用法になりそうな状況かもしれませんが、やはり言葉として古くなってしまったというは流行語の常かと思います。

 年末に予想していた以上に結構な数のグループが全国ツアーを行うことも、次々に発表してます。
 また新年もフェス的なイベントも東京で大規模なものが2つ開催されましたが、どちらかと言うと去年の後半からはトレンドとして見ると、ワンマンから2マンまでのイベントの注目度が高かったようにも感じられるところです。
 BiSとドロシーもコラボシングル発表に続けて1月14日(祝)に恵比寿リキッドルームで2マンライブを行いますが、このような練りこまれた戦略がないと、対バン的なイベントも効果が薄くなってくることも予想されます。


 先の3組(4組?)についてもNTV系列の音楽番組「ハッピーMusic」で特集を組まれたように地上波TVを含めたメジャーなフィールド、そして全国各地のライブイベントで人気グループ、中堅、新人が多数パフォーマンスを繰り広げることでシーンの状況は大きく変化しつつあると言って良いでしょう。

 前述のTV番組でも「明らかにされてしまった」ように今回のコラボはチャートの10位圏内を狙う意図で企画されたものですが、本当に重要なのは「その先」です。BiSは3月に両国国技館のでライブという大きなイベントが控えていますし、ドロシーの方も地元の大箱、仙台サンプラザでの年内の公演を目指して、早速今月から始まる東京での定期公演(公式には未発表ですが仙台でも行うという話もあり)と仙台および東名阪の春ツアーを発表しているところで、更なるファンの獲得を目指しているところでしょう。
 あくまでチャート初週でのライクインは、そのことで得られるパブリシティ効果、つまり各種のメディアで話題として取り上げれることで、更に認知度を上げることに繋げなければならないもので、最終目標ではありません。

 ともあれ、そのような戦略を更に超えて、楽曲的に注目すべきシングルでもあるので、まずは曲から入ってもらいたい、という気持ちも私は強いですね。明日には店頭に並ぶので音源をチェックしたら、また詳しい感想を書きたいと思っています。